KMZ

Helios-40-2 85mmF1.5

M42 mount

暴力的なボケに翻弄されたい

ロシアレンズは安くて写りがよい。標準レンズは数千円程度で買えるわりに、発色、コントラストともに力強さがあり、かなり濃厚な絵が撮れる。ロシア製のカメラやレンズはデッドコピー品が多く、末裔たちも系譜をたどれば何らかの元ネタありきだ。名機や名レンズの設計を元に、安価なマテリアル、ほどほどの精度で組み立てるのだから、コストパフォーマンス抜群というのもうなずける。

そうしたなか、このヘリオス-40-2 85mmF1.5は異端な存在だ。まず、中望遠レンズなのに三脚座付きの個体がある。もちろん、鏡胴は大きく重量も立派だ。EOS 5Dシリーズに付けてもなお、その巨体ぶりが伝わってくる。また、ロシアレンズでありながら、eBayでの相場は500~700ドル程度。大口径ポートレートレンズは総じて高価だが、それにしても堂々たる価格だ。もちろん高いには理由がある。このヘリオスはロシアレンズきってのクセ玉なのだ。

Helios-40-2 85mmF1.5
ロシア製の中望遠大口径レンズだ。写真の個体は1971年製である。本レンズはゼニットマウント(M39マウント)とM42マウントがあり、オークションサイトなどではゼニットマウントのものをよく見かける。絞り機構はプリセット絞りを採用している。

ジュピター9がゾナーコピーであるのに対し、ヘリオスはビオターコピーといわれている。ゾナー、ビオターともにカールツァイスの名レンズで、ヘリオス-40-2 85mmF1.5はビオター75mmF1.5のコピーというのが定説だ。ところがこのヘリオス、ツァイスレンズが元ネタとは思えないほどの暴れっぷりなのだ。

まず、大口径ポートレートレンズだけあってよくボケる。そのボケ量たるや暴力的で、引きの望遠(遠くの被写体にピントを合わせ、前ボケを活かした撮影方法)をやるとボケの大海におどろくだろう。以前、eBayを徘徊していたら、このレンズにBokeh Monsterというキャッチコピーを付けている出品者がいた。多くの場面では滑らかかつ大きくボケるため、このキャッチコピーはあながち大げさではない。


そしてもうひとつ、大口径といえば開放時のぐるぐるボケだ。このヘリオスもご多分にもれず、ぐるぐるボケの発生しやすいレンズとして人気がある。ただし、これに関しては条件付きだ。ぐるぐるボケはたしかに発生するのだが、ある程度条件を選ぶ。開放ならいつでもぐるぐるボケが発生するわけではない。シネレンズでぐるぐるボケに慣れていると、むしろこのヘリオスは「あまりぐるぐるボケの出ない、キレイにボケる優秀なレンズ」という印象を受けるだろう。見方を変えると、シネレンズのスチル撮影が流行る以前、頻度の差こそあれ、ぐるぐるボケが発生するだけでそれは大きな個性になったわけだ。大きな鏡胴といい、暴力的なボケといい、擬人化少女がグラマラスなわけも理解してもらえるだろう。

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