Dallmeyer
Speed Anastigmat 25mmF1.5
C mount
イギリス生まれの魔法使い

たとえその名を知らなくても、恥ずかしがることはない。オールドレンズに興味のない人はもちろん、シネレンズファンでもスピードアナスティグマットを知らない人は少なくない。シネレンズという名の底なし沼に、それこそアタマのてっぺんまで、どっぷり浸かった人が好むタイプのレンズだ。玉数は少なく、中古相場は10万円超えがあたりまえ。それでは価格相応のすばらしい描写なのかというと、これが何とも不思議な写りをする。クセ玉というよりも、玄人ウケするタイプのシネレンズだ。
 

まず、英国製という点がマニア心をくすぐる。日本国内のオールドレンズシーンでは、ライカやツァイスなど、ドイツ製レンズを珍重する傾向が強い。ダルメイヤーのレンズはこれらを味わい尽くした末、やっとたどり着くような場所だ。ましてシネレンズカテゴリーのダルメイヤーともなれば、オールドレンズの最深部といっても過言ではない。少なくとも、オールドレンズビギナーがいきなり手を出すレンズではないだろう。

Speed Anastigmat 25mmF1.5
ダルメイヤーは1860年に創業したイギリスの光学機器メーカーだ。写真のSpeed Anastigmat 25mmF1.5は、戦前生まれの個体と推察される。イメージサークルが大きく、フードを取り外すとAPS-C機でもさほどケラレずに撮影できる。

スピードアナスティグマットの描写をひと言でいうと、古い磨りガラス越しに世界をのぞいているような絵だ。開放近辺はコントラストと発色がおだやかで、うっすらと紗がかかる。周辺部はゆるやかに流れ、撮影条件によってはぐるぐるボケも発生しやすい。全体に朧気な描き方だが、1~2段絞ると中心部は繊細さが際立つ。単にローファイなだけでなく、上品さを備えているところがスピードアナスティグマットの真骨頂だ。
 

実はこうした描写は、一部の高性能シネレンズに見受けられる。スーパーシックスやキノプティックが似たような描写の持ち主だ。あえてカテゴライズするならば、幻想派といったところだろうか。日頃から見慣れたシーンが、これらのレンズを通すと非日常的な世界に変わる。被写体は重力から開放され、その場にふわふわと浮かび上がる。スピードアナスティグマットは、浮遊という名の魔法が使えるレンズだ。

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