Angenieux
P.Angenieux Paris 25mmF0.95 M1
C mount
夢とうつつの狭間をつむぐ者

夢から醒めたとき、果たしてそれは夢だったのか、むしろ夢の方が現実ではなかったのかと、混乱したことはないだろうか。夢とうつつが地つづきで、その狭間に佇むような感覚。夢を夢と言い切る自信がゆらぎ、現実が夢ではないと断言する根拠を見失う。夢に染まったままうつつを歩く――アンジェニュー25ミリF0.95はそんなレンズだ。
 

本レンズはCマウントレンズとしてはむろん、シネレンズ全体でもひときわ明るい。人の目の明るさがF1相当なので、アンジェニュー25ミリF0.95は人の目よりも明るいレンズというわけだ。超弩級の大口径レンズだけあって、開放はかなりにじみがある。しかし、ズマールのようなとめどなくモヤモヤした描写ではなく、線の細いシャープネスが伝わってくる。その描き方はさながら夢のプレイバックのようだ。

P.Angenieux Paris 25mmF0.95 M1
1953年から1980年代にかけて製造されたロングセラーレンズだ。シネレンズブームのさなかは20~30万円で取引されることもあったが、最近は10~15万円が相場といえるだろう。マイクロフォーサーズでは四隅がいくぶんケラレる。

この浮遊感のある描写は本レンズの大きな特徴だが、ただそれだけならよくあるボケ玉だ。アンジェニュー25ミリF0.95のアドバンテージは、絞り込んだときの凄まじいばかりのリアリティにある。F1.4、F2と絞り込んでいくと、にじみが音もなく引き、研ぎ澄まされたシャープネスで痛々しいばかりの現実が姿をあらわす。夢心地から一転、思い出したくない現実を突きつけられたような、残酷な描き方ですらある。まどろみからヌッと現実が顔を出す様は、このレンズでしかなし得ない芸当といえるだろう。
 

アンジェニュー25ミリF0.95は手のひらに載る小さなレンズだ。しかし見かけとは裏腹に、夢とうつつを自在に行き交う浮き世離れしたレンズである。精霊か、妖精か、それとも亡霊か。その描写は人ならざる何かを彷彿とさせる。夢の住人が、夢から醒めてもなおそこにいる。これは夢だと開き直った刹那、夢はうつつとすり替わる。それでも夢の住人は、そこからけっして動かない。夢を引き摺りうつつを歩む。アンジェニュー25ミリF0.95は、レゾンデートルという名の迷宮だ。

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