Kodak
Vest Pocket Kodak Auto-Graphic 80mmF6.8
M42 mount
スチームパンクなツンデレ少女

レンズのフロントマスクを見た瞬間、「買う!」と鼻息を荒くした人はどれほどいるだろう。オールドレンズというよりも、ビンテージレンズと呼びたくなる佇まい。数ある改造レンズのなかでも、ベス単改造レンズは断トツのルックスだ。貴族の紋章のようなフロントパネル、絞り羽根が露出した前絞りの構造、レンズ外周の古風なレバーの数々。その物々しい姿は見る者を惹きつけてやまない。
 

通常のベス単改造レンズは、タクマーなどの安価なレンズの鏡胴を流用することが多い。ここではあえてイエナ製のゼブラ鏡胴を使い、その異端なルックスに磨きをかける。ブリコラージュ工房ノクトに製作依頼した、特注仕様のベス単改造レンズだ。一世紀前のレンズ、そして現代のデジタルカメラ、この両者組み合わせた姿は、さながらスチームパンクのガジェットを彷彿とさせる。時代のクロスオーバーが生み出した、稀代なオールドレンズスタイルである。

Vest Pocket Kodak Auto-Graphic 80mmF6.8
ベストポケットコダックは1912年から1920年代にかけて製造されたカメラだ。大判、中判カメラが幅をきかせていた当時、ポケットサイズを実現したエポックメイキング的な存在である。本レンズはジャンクのベス単からレンズを抜き取り、M42マウントレンズの鏡胴に移植している。

このように厳つい外観の改造レンズだが、描写は一転、激甘のソフトフォーカスレンズだ。ベス単は先端にフードが付いているのだが、このフードの穴が思いのほか小さく、実際のところ絞りも兼ねている。そのためフードを外して絞りを完全に開放すると、本来の開放よりも明るく撮れるのだ。明るく撮れるといってもそこは戦前レンズ、当然ながら収差オンパレードとなる。輪郭という輪郭がふわふわとにじみ、ソフトフォーカスレンズさながらの写りとなる。これをベス単フード外しといい、ベス単が現役だった当時、日本で大流行した撮影テクニックである。
 

ちなみに、フードを付けたままだと至ってまっとうな写りで、ソフトフォーカスになるのはあくまでもフードを外したときだけだ。普段は近寄りがたい雰囲気で、その写りも至極まっとう。フードを外したときだけ、激甘のソフトフォーカス。ツンデレオールドレンズの称号を与えることに、異存はあるまい。

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